失敗から学んだこと

私は若い頃、本当に失敗の多い社員でした。

 

好奇心だけは誰にも負けない。

興味があることには誰よりも積極的。

しかし、興味のないことはやりたくない。

しかも、人の言うことをあまり聞かない。

自分で失敗するまで納得できない。

 

今思えば、絶対に部下にしたくないタイプだったと思います。

 

そんな私が広告代理店へ入社した頃は、ちょうどインターネットが急速に普及し始めた時代でした。

紙媒体の広告や販促から、ネット広告やECへと時代が大きく動き始めていました。

 

私は企画営業として、毎日いろいろな会社へ営業をしていました。

企画を考えることが新鮮で楽しくて仕方がなかった頃です。

 

ある日、私はインターネットで「調剤薬局」という業種を見つけました。

若輩者の私は、「調剤」という言葉の意味すら知りません。

それでも「販促のお手伝いができるはずだ!」と思い込み、嬉々として電話をかけました。

 

電話口の方は「うちは販促は必要ありませんよ。」と、とてもやさしく断ってくださいました。

 

普通ならそこで終わる話です。しかし、人の話を聞かない私は、「きっとこれは断り文句なんだろう」と思い込み、自信満々にサービスを説明し続けました。

 

そして、熱意だけは伝わったのでしょう。

まさかのアポイントをいただいてしまったのです。

当日、私は時間をかけて丁寧に作った提案書を持ち、意気揚々と調剤薬局を訪れました。

 

迎えてくださったのは、40代くらいの男性で、白衣を着たとてもやさしそうな薬剤師さんでした。

私はいつものようにプレゼンを始めます。

 

モバイル会員。

メールマガジン。

リピーター獲得。

販促キャンペーン。

 

一通り説明している間、その方は終始笑顔でうなずきながら聞いてくださいました。

 

そして静かに話し始めました。

 

「あのね、高山君。うちは調剤薬局だから、病院でもらった処方箋を持った患者さんがお薬を受け取りに来る場所なんだよ。普通の薬局みたいに、市販薬や日用品を売っているわけじゃない。だから、"また来てくださいね"とメールマガジンを送るようなお店ではないんだ。」

 

その瞬間、頭が真っ白になりました。

私は、とんでもない提案をしてしまったのです。

 

「申し訳ありません!!!」

私は何度も頭を下げました。

 

その方は笑いながら、

「いいよ、いいよ。」

そう言って、最後にお辞儀までして丁寧に送り出してくださいました。

 

帰りのバスの中で、いろいろなことを考えました。

自分が知らない世界が、たくさんあること。

どこの馬の骨かもわからない何も知らない新人に、自分の時間を割いて丁寧に教えてくださる人がいること。

 

会社へ戻ると、上司が声を掛けてくれました。

「どうだった?」

私は起きたことをすべて正直に話しました。

 

上司たちは大笑いしました。

「調剤薬局に販促を提案したのか!」

今なら私も笑ってしまいます。

 

でも、そのあとでした。

上司は、どんな会社に営業をすべきか。

どんな会社には、その提案が合わないのか。

なぜ相手を理解することが大切なのか。

時間をかけて丁寧に教えてくれました。

 

今振り返ると、私はあの日初めて、人の話を素直に聞いたのかもしれません。

それ以来、私は営業でも、打ち合わせでも、まず相手の話を聞くようになりました。

 

何を売りたいかだけではなく、

相手は何に困っているのか。

何を実現したいのか。

その話をじっくりと聞いてから提案を考える。

それが、私の仕事の原点です。

 

あの調剤薬局の薬剤師さんと、失敗を笑いながらも丁寧に導いてくれた上司たち。

あの日の出会いがなければ、今の私はなかったと思います。

今でも、心から感謝しています。

© TAKAYAMA SEISAKUSHO All Rights Reserved.